Home > ロフトワークの強さ > キーワード・コラム > CMS選定の表ワザ・裏ワザ 後編
※この文章はASCII.JPで掲載された「プロだけが知っている、CMS選定の表ワザ・裏ワザ」の記事を一部編集して転載しています。
諏訪 CMSを導入し、何を実現するのか。自分たちの要件をきちんと決めていることが一番大切です。そのとき、あまり先を考えない方がいいでしょう。5年後のWebがどうなるかなんて誰もわかりません(笑)。よくある失敗は、先々のことを考えすぎたり、ヒアリングを鵜呑みにして全員の要望を実現するためのCMSを探したり、組織に合っていないCMSを選んでしまうことです。CMS導入が目的になってしまいます。
もう1つ、CMSを導入するにあたって、構築パートナーと運用する(自社の)スタッフの存在を忘れてはいけません。実際に構築を担う会社を考えないと「技術は優れているけど日本には構築パートナーがほとんどいない」というCMSもありますし、機能は優れているけど運用スタッフには合っていないこともあります。あるレコード会社の事例なのですが、所属アーティストのマネージャーもコンテンツの更新をする必要がある。場合によってはアーティスト自身も更新する。結局、組織は大きかったのですがMTをベースに構築しました。情報設計や構造化は大変でしたが、「業務」っぽいCMSではアーティストも更新してくれません。
清水 とはいえ、最初から的確な要件を定義するのが難しい場合もあります。CMSを初めて導入する場合は、自分たちの仕事がどう変わるのかを想像しながらヒアリングに答えたりRFPを作ることになるので、事実の中に「想像」や「想定」という不確定要素がどうしても混ざってしまいます。
だから、要件定義が不十分だったことが分かった場合は、分からなかったことが分かるようになったと前向きに考えて、柔軟に対応できるようにしておくことが重要です。たとえば、しばらく運用してみて分かったことを反映するためのプロジェクトを最初からプランしておく。
もちろん、構築パートナーも重要ですね(笑)。僕はCMSと構築パートナーはペアで同時に選ぶべきだと思っています。ノウハウがあるパートナーは、適切に製品を選定できます。さらに重要なのが、パートナーが慣れた製品を使いこないつつ最高のシステムとプロセスを設計・構築できる状態にすることです。
清水 システムは使い捨てるくらいの覚悟で導入してしまえばいいのでは? 投資したシステムに囚われて守りに入るよりも、コンテンツやWebサイトをよい状態で保つこと、貯めていくこと、コンテンツをうまく扱える組織を作ること——に力を入れた方がいいと思います。大事なのは中身としてのコンテンツと、その管理プロセス。成長に合わせてシステムは柔軟に変更していくべきでしょう。
以前、2年かけてCMSを選定しながら、その間に別のCMSを短期導入したことがあります。あとでコンテンツをきれいに(構造を保ったままメタデータ付きで)取り出せることさえ確認しておけば、「無いよりは良い」「評価や学習にもなるだろう」と。家族構成や仕事の都合に合わせて住む場所を引っ越すのにも似ています。
諏訪 僕も同じ意見で「そんなに考えない方がいいです」と言いたい。清水さんのように潤沢に予算を使えるケースは少ないかもしれませんが(笑)、だいたい、「拡張性」を考え始めると機能が豊富なエンタープライズCMSかオープンソースCMSを選びたくなってしまいます。
エンタープライズCMSは導入が大変ですし、オープンソースは正直数年後にどうなるか分からない。オープンソースを支持したり協力している会社からは怒られてしまいますが(笑)、壮大な夢を見ながら数年で止まってしまったCMSプロジェクトはたくさんあります。
たとえば、以前はCMSの少なからずが動的なDB型で、「DBに入れておけばどんな形にも再利用ができます」という口上で採用されていた。ところがいまのサイトはどんどんXML化しつつあって、スキーマーが固定化してしまっているRDB型のCMSは困るケースが増えていたりもします。Twitterが企業のニュース発信の標準プラットフォームになれば企業サイトやCMSも影響を受ける部分もあるかもしれません。
いずれにしても、あまり考えすぎないこと、詰め込みすぎないことが大切だと思います。
諏訪 裏ワザといえるかどうかわかりませんが、ソーシャルコンピューティングの第一人者として知られるフォレスター・リサーチのシニアアナリスト ジェレマイヤ・オウヤンさんが提唱する「POSTメソッド」を紹介しましょう。POSTは「People」(人)、「Objective」(目的)、「Strategy」(戦略)、「Technology」(技術)の頭文字を取ったもので、システムの導入はこのPOSTの順番の通りに実践する必要があると言われています。これがCMS導入でも当てはまる。CMSの選定や導入を先にしてしまうと失敗します。
・誰がどのように運用をするのかを考える=(People)
・何を実現するのかをしっかり見極める=(Objective)
・戦略を考える=(Strategy)
・最後にCMSを選定する=(Technology)
このPOSTの順番に進めれば「大失敗」は避けられるのではないでしょうか。
清水 では僕からは裏ワザを2つ紹介します。まず、プロトタイピング。特に CMSを初めて導入する場合、導入後の具体的な運用が想像と違っていたために期待外れに終わる、というリスクがあります。CMSを導入することで、何がどう変わるのかを具体的に理解することが重要です。そこで、実際のサイトを使って実際の組織やメンバーを反映させたシナリオを作り、デモをしてもらう。紙芝居的なペーパープロトタイプでもOKです。無償の提案では難しいことが多いので、Proof-of-Concept(PoC)のためのプロジェクトを作り、予算を付けられればベストですね。導入後の「大失敗」を避けることができるので、お金をかける価値はあると思います。
2つ目は、詳しい人を中途採用してしまう方法です。CMS導入は業務プロセスの変更を伴うので、社内のコンセンサスを得て予算を確保する、組織の役割や体制を調整する、運用の実情を理解する、考え方の啓蒙をする、などの時間がかかるタスクが社内で発生します。コンテンツ管理に関するある程度の知識と経験を持ち、ベンダーやパートナーと建設的な協力体制を作りながら主体的に導入・変革プロジェクトを推進できる社員をアサインできればベストですが、難しい場合は経験者を採用してしまえばいい、と。私もこのパターンで以前の勤務先に期間限定で入社しました。
諏訪 すごい、超裏ワザですね(笑)。清水さん、今日はありがとうございました。実はこの対談、もっと軽いモノを考えていたのですが、気がつけばすごく深くなってしまいました。最後まで読んでいただいている読者の方、ありがとうございました。
僕らは制作業界の中ではCMS導入を相当進めている会社だと自負がありますが、それでもプロジェクトごとに発見があります。まだまだ改善しなければいけないことや、新しい開発手法、さらなるプロジェクトマネジメント力の強化という僕らの課題、そしてCMS自体にもまだまださまざまな課題と求められる進化があると思います。
この何年かでサイトの規模が急激に大きくなっています。「平屋」なサイトしかなかったのが急激に「ビル」が増えてきている。もうCMS無くしては構造体を保てない、作れないサイトがどんどん増えてます。そんな中でつくる手法も技術(CMS)もどちらもまだまだこれからなんだと思います。今日清水さんと話しても、プロジェクトのたびにも発見がある。CMS導入に関係するユーザビリティやマーケティングもそれぞれでとても深い世界だし、担当者に必要なプロジェクトマネジメントもそれだけで“身を立てられる”技術です。サイト検索など新しい技術は進化しつづけるし、身に付けるべき知識は広がる一方です。
部署・役職 : 代表取締役社長
ロフトワークの共同創業者、代表取締役社長。2000年、クリエイティブの新しい形の流通を目指しクリエイターコミュニティ「loftwork.com」をスタートし、株式会社ロフトワークを設立。自身もクリエイティブディレクターとして活躍してきた経験を活かし、「loftwork.com」を日本最大級のクリエイターコミュニティに成長させる。近年は、Webプラットフォームの有効活用をテーマとしたセミナー・講演、執筆活動を精力的に行い、企業経営とWebのシナジーを高める提案を積極的に行っている。
1971年米国サンディエゴ生まれ。
慶応大学総合政策学部(SFC)を卒業後、JapanTimes社が設立したFMラジオ局「InterFM」(FMインターウェーブ株式会社)立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。
Twitter:@suwaws
2010/02/08 シニアディレクター 滝澤 耕平
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