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インターネット時代の著作権を考える 第1回 ブログに著作権はある?

2009/10/30 林 千晶  キーワード : 【 loftwork.com 】 【 クリエイターコラボレーション

インターネット時代の著作権を考える 第1回 ブログに著作権はある?

「Web上の作品の著作権って、どうなっているの?」
「インターネットで、著作権の考え方はどう変わっていくの?」

最近、よく耳にするのが、インターネット上の著作権に対する、こんな疑問の数々。著作権の考え方は、権利の問題や文化の問題など、さまざまな側面が複雑に絡んでいるうえ、さらにインターネットという比較的新しい仕組みによって、大きな揺らぎが生まれています。

そもそも、インターネットの著作権は、今、何が問題で、これからどんな方向に向かっていくのでしょうか?そこで、インターネット著作権が抱えている「現状の課題」と「これからの動き」について、ロフトワークの林千晶が、全4回の特集でわかりやすく解説します。

※本記事は、雑誌『Web Site Expart #26』(技術評論社)で「インターネット時代の著作権を考える」と題し連載中です。

私のブログも、著作物?

はじめに、このような状況を想像してみてください。

 あなたは、自分のブログで可愛い愛猫の写真をいつも紹介しています。ある日、友人からのメールで、その写真のうちの何枚かが知らない人のブログに載っていることをあなたは知ります。あなたのブログから引用したことが明記されているようですし、「とっても可愛いので紹介させてもらいました」というコメントもついていたので、あなたはすっかり嬉しくなってしまいました。

 しかし、意外にもその友人は、こんなことを言うのです。

「ブログに掲載した写真や文章などは明確な著作物であって、それを無断で引用すれば、著作権の侵害になる。君は、法律的に見れば、権利を侵害されていることになるんだよ」あなたが撮った猫の写真は、単なる数あるスナップの中の一枚であって、あなたはそれを「作品」とか「著作物」と考えたことは一度もありません。ですから、あなた自身は著作権を侵害されたなどとは露ほども考えていないわけです。にもかかわらず、それを無断で掲載されれば、法律的には著作権が侵害されたことになると友人は言う。これはいったいどういうことなのでしょうか。

インターネットの著作権をめぐる「ねじれ」

以上はあくまでも仮定の話ですが、実は現実的に方々で起きていることでもあります。この話の中に、現在の著作権をめぐる「ねじれ」が凝縮されています。

 現在の日本の著作権法において、著作権は「自然権」であると考えられています。これはどういうことかというと、特許のように、自ら申請し、審査を経ることによって認められる権利ではなく、ある表現物を公表した時点で、本人の意志に関係なく自動的に与えられる権利ということです。このような考え方がこれまで違和感なく受け止められてきたのは、従来、著作権の保護対象があくまで「プロ」だったからです。

 著作権という考え方は、15世紀のグーテンベルクの印刷機の発明とともに生まれたと言われています。書物を印刷機で大量に複製することが可能になると、その書物のオリジネーターが誰かを明らかにし、その人たちの利益が侵害されない仕組みをつくる必要が生じました。書物のオリジネーターである作者や出版業者は、書物の売買によって利益を上げ、それによって生活する人たち、つまりプロフェッショナルです。そのプロたちを守る仕組みとして生まれたのが、著作権法というわけです。

かつて、マスに向けて情報発信できるのは、プロの特権だった

 レコード、映画、ラジオ、テレビといった新しいメディアが登場してからも、この著作権の考え方は変わりませんでした。音楽家や映画監督といった個人としてのプロと、レコード会社、映画会社、テレビ局などの組織としてのプロ。その両者を守る法律として著作権法は機能してきました。

 プロを守るための法律ということが前提であれば、著作権が自然に付与される権利であることに、とくに問題はありません。作家や音楽家は、作品をつくり、世に公表する。それは「自然に」著作物とされ、法律によって「自動的に」保護されるわけです。

しかし、そのような前提が、ある技術の登場によって大きく覆ることになります。デジタル、およびインターネットです。

インターネットの場合、誰もが同じ条件下で情報発信が可能

 デジタルツールとインターネットの登場以降、人々は、デジタルカメラで写真を撮り、デジタルビデオカメラで映像をつくり、PCのソフトで文章を書き、イラストを描いて、それを世界中の不特定多数の人たちに一瞬にして頒布することが可能になりました。これらの作品をつくり頒布している人は、多くの場合、それで生計を立てているわけではない人たち、すなわち「アマチュア」です。しかし、その人たちが作品のつくり手である以上、彼・彼女らは著作権法によって守られることになります。著作権法の中に、プロとアマを区別する発想は一切ないからです。


 従来、作品をつくりそれをマスに向けて流通させられるのはプロしかいませんでした。したがって、著作権法においてプロとアマの区別をする必要はなかったのです。しかし、デジタルとインターネットという革命的な技術によって、あらゆる人が「作者」となり、コンテンツのディストリビューターとなることが可能になりました。たとえ、その人自身に「作品をつくった」という意識がなく、「自分は作者である」という自覚がなくても、著作権は自然権であるという考え方のもとでは、その人は、著作権法によって守られることになります。

従来の著作権法は、時代遅れ

こうして見ると、従来の著作権法が、いかにインターネット時代にそぐわないものかがおわかりいただけると思います。

 自分のブログに猫の写真を載せた人は、本人の自覚とはまったく無関係に、愛猫の写真という「作品」の「作者」として扱われ、著作権法による保護の対象となる。したがって、作品を無断で複製されれば、著作権が侵害されたことになる──。この考え方は、従来の著作権法の枠組みを前提とすれば、「正解」です。しかし、インターネットの実態から見れば、決して正解とは言えません。魅力的なコンテンツがネットワークの中でシームレスに引用され、流通していく。それこそがインターネットの本質だからです。

 愛猫の写真をブログに載せたユーザーと、その写真を善意に基づいて自分のブログで紹介したユーザーの間には、ハッピーなリレーションシップが成立しています。しかし、現行の著作権法から見れば、この2人は、権利を侵害された被害者と、権利を侵害した加害者という関係になってしまうのです。

 もちろん、プロの権利は、これまで同様、法律によって手厚く保護されるべきです。しかし、少なくとも、自分が著作権者であるという認識のないアマチュア、あるいは、著作権をあえて主張しようとは思わないプロの作品は、従来の著作権法とは異なる体系のもとで取り扱われるべきでしょう。そのような新しい体系がなければ、インターネットというコミュニケーションインフラを日常的に活用している私たちは、簡単に著作権法における被害者となってしまいますし、同じくらい簡単に加害者にもなってしまうのです。

 次回は、インターネットとコンテンツビジネスの関係から、現在の著作権の問題に迫ってみたいと思います。

林 千晶

執筆者

部署・役職 : 代表取締役

ロフトワークの共同創業者、代表取締役。16,000人が登録する日本最大級のクリエイターコミュニティを核として、Web開発、コンテンツ制作、映像、広告プロモーションなど信頼性の高いクリエイティブサービスを提供。またクリエイターとのマスコラボレーションの基盤として、いち早くプロジェクトマネジメント(PMBOK)の知識体系を日本のクリエイティブ業界に導入。米国PMI認定PMP。米国NPOクリエイティブ・コモンズ アジア責任者も務める。

1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒業。1994年に花王に入社。マーケティング部門に所属し、日用品・化粧品の商品開発、広告プロモーション、販売計画まで幅広く担当。1997年に退社し米国ボストン大学大学院に留学。大学院卒業後は共同通信NY支局に勤務、経済担当として米国IT企業や起業家とのネットワークを構築。2000年に帰国し、ロフトワークを起業。

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