Home > ロフトワークの強さ > キーワード・コラム > CMSはこう選び、こう提案せよ!イマドキのCMSとの付き合い方 Vol.2 「クライアントとひとつになる方法」
Webによる情報発信の重要性が高まる中、これまでのマニュアル運用に限界を感じ、CMSを導入する企業が増えている。転機を迎えつつあるWeb制作の現場は、CMSの戦略的活用を見据え、どんな価値を提供できるのだろう。プロジェクトの成否を分けるポイントを中心に、“イマドキのCMSとの付き合い方”について考察してみたい。
この文章は株式会社エムディエヌコーポレーション発行の月刊「web creators」2009年12月号に掲載したものです。なお、この文章につきましては、株式会社エムディエヌコーポレーションの「MdN Interactive」でもごらんいただけます。
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通常のリニューアルに比べ、CMS導入のプロジェクトは規模が大きく難しい。予算規模も大きく、クライアントにとって日々使うシステムも兼ねているから期待値が高く、プロジェクトへかける意気込みは大きくなる。
クライアントの期待を一身に背負い、ついWeb制作の現場まで力んでしまうのもしかたない。クライアント・Web制作の現場ともにその気合いが良い方向に作用すれば問題はないのだが、CMSを導入すること自体が目的になってしまうケースも多い。本来の目的を見失った途端、Webサイトの構築はCMSありきになってしまい、いつの間にかユーザーの視点が置き去りにされ、結果的に使われない仕組みを生む可能性が高い。使われてこそのCMSである。この点を肝に銘じてとり組むべきだろう。
*1:優先すべき目的に応じて適用範囲(スコープ)を設定。CMSで何を実現したいのかのゴールを明確にする
CMS導入の成否を分けるポイントはいくつかあるが、最初の関門がプロジェクトの初期段階だ。ここで適用範囲(スコープ)の設定を誤れば、ほぼ確実にプロジェクトの破たんにつながると考えたほうがよい。そもそもすべてをCMSで実現するのは不可能であり、優先すべき目的に応じてスコープを決め、関係者全員の合意を形成しておく必要がある。そのためにも、まずCMSで何を実現したいのか、クライアントのビジネス上のゴールを明確にすることが第一歩となる*1。
そこで、プロジェクトの初期段階に欠かせないのが、発注者側が用意する「RFP(提案依頼書)」と制作側が提出する「SOW(作業範囲記述書)」である。特に第一歩であるRFPは重要だ。
関係者全員がプロジェクトについての情報を共有し、相互理解を深め、意思疎通をスムーズにするためにも、ニーズを口頭発注ではなく「RFP」という文書にしてもらうことが重要だ。これにより、プロジェクトを通じて達成すべき目標やゴールだけでなく、Web制作の現場が負うべき責任範囲も明らかになる。また、CMS導入は作業量にしても責任においても企業担当者一人だけで完結できることは少ない。社内で要求仕様のコンセンサスをとれていないCMS導入は、プロジェクト中に社内トラブルになる可能性が極めて高い。
クライアントからRFPの提示がない場合は、作成を依頼するか、クライアントと一緒になってRFPの作成にとり組んでも良い。また、SOWは最終的に「何を納品するのか」範囲を規定したものだ。移行ページ数といったわかりやすい納品物一覧だけではなく、ユーザビリティ、ブラウザの互換性、SEOの品質基準といった納品の規定を盛り込む必要がある。
*2:何にどのくらいの時間がかかるのか、プロジェクトの完了までの
現実的なスケジュールを作成
*3:プロジェクト体制図は、隠れたステークホルダーの見落としを防ぎ、
責任の所在が明確にするうえでも効果的
大半のクライアントはCMS導入に不安を抱えている。社内からの高い期待にこたえるため、大過なくプロジェクトを完遂できるのか、果たして効果は得られるのかなど、はじめての体験に戸惑うことが多い。その不安をとり除くことも、制作パートナーの重要な役割である。
具体的にはプロジェクトマネジメントの手法を用いた今後の道筋を明らかにすることが求められる。体系的なプロジェクトマネジメントを取り入れていない場合は、過去の事例を参考に時系列順で「これから起こること」をプロジェクト前でも進行中でも伝える必要がある。
実績があまりない場合はどうしたらよいだろうか? サンプルとなる自社サイトをつくり、自社の実力を目に見える形で提示し、それをサンプルとすることをお薦めする。また、現実的で明確なスケジュール*2およびプロジェクト体制図*3の提示は、クライアントにとっての大きな安心材料となり、早期の信頼関係の構築に役立つ。
CMSプロジェクトに限らず大規模なプロジェクトには、宿命的に大きなリスクが存在している。たとえば静的サイト50ページの制作なら、トラブルを徹夜で乗り切ることもできるだろう。しかし2カ月以上にわたるプロジェクト、もしくは制作費200万円を超えるようなプロジェクトから急激に難易度が高まり、プロジェクトが破たんするケースが出てくる。
天性のマネジメント能力か豊富な経験、もしくは適切なプロジェクトマネジメントスキルを身につけていないとどうなるか。
度重なる仕様変更への対応や、それによってどのくらいの作業量の変更が生まれるのかを正しく見通せず、スタッフの疲労は蓄積し、クライアントの不信とストレスは高まり、プロジェクトは“デスマーチ”と言われる破たんプロジェクトへ突入する。
徹夜と根性でクライアントにこたえることはプロフェッショナルの仕事ではない。それは自らの知識とマネジメント能力の不足を埋める通過点であり、プロジェクトの品質と成果でこたえるのがわれわれプロフェッショナルの仕事であると思うがいかがだろうか?
*4:いったん走り出したプロジェクトは、あとになればなるほど
軌道修正が難しくなる
いったん走り出したプロジェクトは、あとになればなるほど軌道修正が難しくなる。スタート地点での準備不足が露呈すれば、コストも時間も膨らみ、行き着く先は“プロジェクトの失敗”だ*4。
そこで重要になるのが、ワイヤーフレーム(画面仕様設計書)などの各種ドキュメントの作成だが、Web制作の現場では意外に習慣化されていない。ドキュメントの不在は、かなりの高確率でリスクファクターになる。SOW・プロジェクトマネジメント計画書・議事録・仕様書、これらのドキュメントは欠かさず、もれなく、迅速につくることを心がけたい。
*5:書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』(技術評論社刊)。Webプロジェクトに特化したプロジェクトマネジメントの方法をまとめている
また、プロジェクトにはハプニングがつきものである。プロジェクトの開始から完了まで、タスクやプロセスを継続的に管理し、適切にコントロールする機能がなければ、どんなに詳細なドキュメントや計画も意味をなさなくなってしまう。
繰り返しで恐縮だが、この面でもプロジェクトマネジメントの導入はやはり欠かせない。プロジェクトが生み出す価値を高めることで、クライアントやその先にいるユーザーがハッピーになるのはもちろんのこと、“きちんと利益の出る”質の高いプロジェクトを実現し、Web制作の現場もまたハッピーになる。そのためのプロジェクトマネジメントである。
プロジェクトマネジメントにおいては、実質的な世界標準とされる「PMBOK」という確立された手法があり、これをWebディレクションに適用することで、大半の失敗プロジェクトは回避できる。事実、Web制作を手がける筆者の会社では、PMBOKに則ったプロジェクトマネジメントを実践し、数多くの成功事例を通じてこのことを確信している。弊社の書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』でそのノウハウを解説しているので、ぜひお役立ていただきたい*5。
PMBOKでは、プロジェクトマネジメントを9つのエリアに分割し、作業のカテゴリと分野を定義
PMBOKは、プロジェクトを確実に成功させるための方法を体系化したフレームワーク。プロジェクトに関する事柄が網羅的に体系化されており、これに準拠することで、Webディレクションの失敗のほとんどを未然に回避できる。
また、PMBOKをベースとした信頼性の高いフレームワークをつくることで、Web制作の現場がクリエイティブ業務に注力できるようになる。
部署・役職 : 代表取締役社長
ロフトワークの共同創業者、代表取締役社長。2000年、クリエイティブの新しい形の流通を目指しクリエイターコミュニティ「loftwork.com」をスタートし、株式会社ロフトワークを設立。自身もクリエイティブディレクターとして活躍してきた経験を活かし、「loftwork.com」を日本最大級のクリエイターコミュニティに成長させる。近年は、Webプラットフォームの有効活用をテーマとしたセミナー・講演、執筆活動を精力的に行い、企業経営とWebのシナジーを高める提案を積極的に行っている。
1971年米国サンディエゴ生まれ。
慶応大学総合政策学部(SFC)を卒業後、JapanTimes社が設立したFMラジオ局「InterFM」(FMインターウェーブ株式会社)立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。
Twitter:@suwaws
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