CMS学会8月8日 パーティのオサソイ♡

森美術館が写真撮影を許可したことについての考察

2009年7月25日から11月8日まで森美術館で開催される「アイ・ウェイウェイ展-何に因って?」。日本の美術館として初めてクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用し、館内での写真撮影を許可する企画展を実現しました。

私自身、クリエイティブ・コモンズのアドバイザリーとして今回の試みを支援した立場のため、「美術館の中で写真撮影できる」という事実が、訪れた観客にどのように受け止められるか、そしてアート業界やメディアからどのような反応があるか、とても楽しみでもあり不安でもありました。

ただアート業界にとってもクリエイティブ・コモンズにとっても、とても大切な一歩だと認識しており、表面的な「良かった!」というコメントではなく、もう少し踏み込んだ形で自分の考えを整理しようと思います。

アイ・ウェイウェイ展
Creative Commons License

まず、私は今回の森美術館が写真撮影を公式に許可したことは素晴らしいことだと思っているし、日本だけでなく世界の美術館において、写真撮影を許可する機会が増えたらいいなと思っています。

『写真にして残したいという欲求』
人は素晴らしいものを目にするとそれを写真に残し、人にも伝えたいと思うもの。美術館の中だけでなく、自然に触れた時でもイベントがあった時でも同じですね。この極めて原始的で多くの人に共通のニーズが満たされるのは大きいことだと思います。

展示作品の中で心に強く残った作品を写真として保存してもいいし、ブログを通じてその感動を他の人と共有することもできる。それにより、アートに関わる「コモンズ(共有財産)」がネット上に形成されアートを取り巻く環境がますます豊かになると思っています。

『アーティストにとって今や見逃すことのできないソーシャル』

インターネットは、アーティストにとっても今や見逃すことのできないメディアだといえます。そして観客のブログ/写真共有サービスなどを通じて自分の作品が露出する機会が乗数的に増え、ファンを増やす可能性をもっている。ソーシャルの流れをアーティストやアート業界にも取り込むこと、これが今回のプロジェクトの目標のひとつでもあります。

今回CCライセンスに同意してくれた出展作家の小泉明郎さんに質問したところ

「写真撮影されるのが怖いとかイヤだという感覚は全然ないです。
 知ってもらう機会が増えるのではないかと、むしろわくわくしています。」
「どの場面がどんな風に写真に撮られるかわからないリスクもありますが?」
「それは全然気になりませんね」

と、とても前向きに捉えてくれていたことがわかりました。

小泉明郎さん

『美術館にとって観客との新たな関係性づくり』

美術館にとっても、人から人への口コミ(ソーシャル)の活用により広報効果が高まり、最終的に来場促進が期待できるメリットがあるでしょう。

また「美術館の役割」も、旧来の一方的な情報発信の流れ(美術館から観客へ伝える/教えるという不可逆な情報の流れ)から、展示がどのように受けてとめられているのか、観客の反応を吸収し美術館からのメッセージも進化していく。そんなあたらしい美術館と観客の関係をうみだすきっかけになるのではと期待しています。

こういった新しい活動の結果が層のように重なりあい、「アートに対する成長と教育の機会の増加」を実現する。アートがもっと身近なものになり、よりクオリティの高いものを目にする機会が増え、生活の中に取り込まれたら、アートを支える層が広がる。そうなったら素敵だなと思うのです。

アイ・ウェイウェイ展
Creative Commons License

だからといって、すべての美術館が写真撮影を許可すべきだと考えているわけではありません。またよりよい形で根付くための改善も必要だと思っています。

『すべてはバランス』

すべての美術館/企画展で写真撮影を許すべきだとは考えていない。美術館のサイズによっては撮影を許可することで動線が確保できずスムーズに閲覧できなくなるかもしれないし、展示によってはアーティストの極めて実験的な内容で記録に残るのをコントロールしたい内容もあるだろうし、二次著作物(ポストカードやポスターの販売なども含め)で利益を上げている作家/作品についても写真撮影は著作権者にデメリットが大きくなると思います。

つまり、美術館の存在意義や立地条件、展示内容や伝達メッセージによって「最適なアプローチを考える」ことが重要で、考えずに写真撮影を禁止することも、盲目的に写真撮影を支持することも間違っていると思うのです。


『1人の悪意よりも、9999人のハッピーの為』

ルールを作るときに、基本思想が重要だと思う。日本で多いのは、1つの悪用パターンが見つかったら、たとえそれが何千人にとって不都合でもそれをルールとして制定してしまう傾向。

例えば今回のCCライセンス導入にあたっても「撮影した写真から同じような作品をつくってしまうリスクは?だからやはり撮影は禁止すべきでは」という不安の声も上がりました。ただそれに対し、贋作をつくるという行為は、そもそも写真撮影を許可しなくても図録からでも森美術館のオフィシャルサイトからでもやれるもの。特に今回のような大型インスタレーション中心の企画展において、贋作をつくられるリスクの発生確率は極めて低いはず、といったやりとりをしてきました。

それ以外にも以下のようなリスクをリストアップし、リスク事象の発生確率と影響度の組み合わせで「最終的なリスクのインパクト」を分析し、写真撮影を許可しても大きなリスクはないとの判断に至ったのです。

・撮影した写真を加工してしまう人がでるかもしれない
  発生確率:中 影響度:小
  個人利用での範囲では影響度は極めて小さい
  許せない場合は美術館とアーティストが一緒に法的アクションをとればいい
  CCライセンスを採用しているため全世界において法的にアクションがとれる

・作品を上手に撮影して商売に使ってしまう人がでるかもしれない

  発生確率:小 影響度:大
  もし本当に本物に近いような写真が撮影できたら、複製による
  違法な商業利用が可能になってしまう。この場合の影響度は大きい。
  だから本格的に撮影できる三脚の使用は禁止。
  スナップショットでの撮影であれば、本物同様レベルでの複製は
  難しくなると判断しました。
  また今回の企画展は大型インスタレーションが中心で、
  写真だけで複製できる作品は少ないため問題がないだろうと判断。

アイ・ウェイウェイ展
Creative Commons License

実際、世の中のことで「0対100」で善悪の判断がつく事象なんてほとんどない。先日、民主党の高山議員と話をしていて盛り上がったのもこのポイント。「政策を決めるのは本当に難しい。例えば20対80くらいで善悪の判断できればわかりやすけれど、多くの政策的判断は55対45とか、ひどいときは51対49なんて状況で判断を下さないといけない。しかもその1%の違いを国民にわかりやすく伝えないといけない。必死です」と。

美術館内で写真撮影を許可したことについても、当然(過渡的なものも含め)ネガティブな面もあると思います。

例えば、撮影マナーの悪さ。

これが今、一番心配していること。携帯で「カシャン」と大きな音をたてながらみんなが遊びのように美術館に押し寄せたら、当然「アートを愛する人たち」にとっては嘆かわしい状況になってしまいます。また写真撮影を許可したことによる、美術館内のオペレーションの難しさや負荷の増大もあると思います。美術館によっては、その人的リソースを確保できないから対応しない、という判断もでてくるでしょう。

ただ、私は日本が大好きだし日本の明るい未来を信じている。だから日本がよりよい国になるために、自分ができることをひとつずつやっていこうと思っています。

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「読み取り専用」美術館からの脱却: リードオンリーからリードライトへ(2009.08.04 送信元:インターネット大好き小池さんのブログ
森美術館が写真撮影を許可したことと関連して 森美術館「アイ・ウェイウェイ展−何に因って?」  日本で初めて美術館としてクリエイティブ・コモンズライセンス...

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