プロジェクトを動かし、人の心をふるわせたロフトワークのネットワーク
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2008年10月3日からの10日間、渋谷駅の地下街の壁を1000人の顔が埋め尽くしました。これは、渋谷の変わらない魅力を見つけようと、「shibuya1000」というイベントの中で実現したコンテンツの1つ、「渋谷1000人顔」です。ロフトワークとのコラボレーションで広がるプロジェクトの可能性について、実行委員会のメンバーにお話を伺いました。
長年愛されてきた五島プラネタリウムが2001年に閉館を迎え、東急文化会館が更地と化し、2008年6月には副都心線が開通するなど、渋谷駅周辺の再開発が本格化しています。今後20年をかけて変わり続けようとするまちで、もし変わらないものがあるとするなら、それが渋谷の魅力であり、宝物であるはず。そんな「変わらないもの」を見つけるために始動したのが、シブヤ・アートプロジェクト「shibuya1000」です。
▲「映像」、「写真」、「ファッション」から「ひとのまち渋谷」を描き出す
「これまでの渋谷の魅力をもう一度見つめ直し、きちんと発信していくために何ができるだろうか。そんな話を渋谷にいる方々からいただき、このプロジェクトに関わることになりました。普段は本郷にいる我々ですが、外部から冷静に渋谷の魅力を捉えられる立場として参画したわけです」と語るのは、プロジェクト実行委員会の代表幹事を務めた東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 景観研究室の川添善行氏です。
2008年10月3日から13日までの10日間、渋谷駅地下コンコース内で繰り広げられたイベント「shibuya1000」では、「our city, our culture. ひとのまち渋谷へ。」をキャッチフレーズに、「映像」、「写真」、「ファッション」の3つの切り口でさまざまなコンテンツが展開されました。
「デジスタ1000seconds」、「渋谷千景」、「渋谷1000人顔」など、展示内容においても「1000」という数字にとことんこだわったのは、他の都市にはない「人」の魅力を発信するためです。渋谷には、「1000」という規模を難なく達成できるだけの広さ、人の多さ、才能の豊かさがあり、これこそが渋谷というまちのパワーの源だと考えたのです。そこで、人が主役になれるようなイベントを実現することが大きな目標となりました。
趣旨に賛同するさまざまな企業が後押しする中で、展示の1つである「渋谷1000人顔」に協力したのがロフトワークです。「渋谷1000人顔」は、20人の写真家がそれぞれのテーマで撮影した1000枚のポートレートで、地下街の壁を埋め尽くすという壮大な企画。どうしても譲れない1000枚のために、川添氏は渋谷で活躍する写真家を自らの足で訪ね歩き、イベントの趣旨を説明し、協力を依頼するといった活動を地道に繰り返したといいます。
しかし、どう頑張っても半分がやっとでした。どうしたものかと困っていたところに、人づてに、渋谷を拠点とするクリエイティブ企業の存在を知ることになります。これがロフトワークとの出会いでした。迷わず協力要請に訪れた川添氏に対し、イベントのコンセプトや目的、川添氏をはじめとする実行委員会の思いに共感したロフトワークは、二つ返事で引き受けることにしました。
「渋谷1000人顔」は、1日に何百万人もが行き交う公共空間での展示会であり、作品を発表する絶好のチャンス。若手写真家が巣立っていくためのプラットフォームとなるだけでなく、ミッションであるクリエイティブの流通という意味においても十分な意義がある。ロフトワークはそう感じたのです。
一方、川添氏は、ロフトワークについて最初の印象をこう語ります。
「もともと我々は専門が違いますから、アーティストやクリエイターの知り合いはそれほど多くありません。ロフトワークのバックには1万人ものクリエイターがいると聞いて、すぐに伺いました。結果的に大変なプロジェクトになったわけですが、まず動きの早さに感心しましたね。風景とは違って、人を撮るとなると難しい面もあります。加えて公共空間であることを考えると、お願いできる写真家も限られてきます。そんな中で、ロフトワークはすぐに8人の写真家をピックアップしてくれました」。
写真家の選定にあたってロフトワークに伝えられたのは、作品についての細かな注文などではなく、展示に関する条件のみでした。出力紙のサイズに加え、予算が限られていること。多くの人に作品を見てもらえるチャンスであること。さらに、ギャラリーのように完結した世界感は出せなくても、公共空間という新しい場所ならではの面白さがあることでした。
これらの条件をもとにロフトワークが厳選した写真家について、「皆さん素敵な写真を撮られる方ばかりで、これは行けるな!と確信しました。どこかで証明写真に少し毛が生えたような、似通った作品になるかなと思っていたので、うれしい誤算でした」と川添氏。
まさに、このクリエイティブの幅の広さこそが、あらゆる才能が集結した大規模なクリエイターネットワークの強みです。この時点でロフトワークのフットワークの良さ、クリエイティブに関する感度の高さを実感した川添氏は、その後の進行についてはすっかりお任せだったといいます。こうして新たなチャンスを得た8人は、それぞれに異なるテーマで、思い思いに渋谷に集う人たちの表情を撮影。1人あたり50作品、合計400点もの写真を約1ヵ月弱という短期間で仕上げ、「渋谷1000人顔」の実現に大きく貢献したのです。
「枚数が多いうえに短期間でしたから、8人ものプロフェッショナルを相手に1人で取りまとめていたロフトワークの担当ディレクターは相当大変だったと思います。それでも、最初から最後まで迅速かつ的確に、さらに誠実にご対応いただき、見えない努力を厭わない姿勢にはとても好感が持てました。しかも、期日どおりに進めていただけたので安心でした」(川添氏)。
「おそらく、私が撮影に立ち会えなかった写真家の皆さんも、撮影時に自分の言葉でイベントの趣旨をきちんと説明し、共感してもらえたからこそ、これだけ多くの人が集まってくれたのだと思います。これは街づくりの視点でも重要なプロセスであって、ただ計画するだけではなく、それを支えてくれたり、共感してくれたりする人を大切にしなければなりません」と川添氏は強調します。
▲「渋谷1000人顔」の作品と川添氏
渋谷の面白さを切り取る人たち、展示会場の準備に徹夜で協力してくれた50人以上もの有志の学生たち、そして渋谷に集う人たち。いろんな人をつないでくれた「渋谷1000人顔」は、新聞などのメディアでも取り上げられ、大きな注目を集めました。しかし、川添氏が何よりうれしかったというのは、次の1通のメールです。
「ほんの一瞬でもいいから、その人の生活に関わることができる。それが一番いいデザインであり、一番いいアートだと思います。気持ちがほんわかするという感想は、どんなメディアに取り上げられるよりうれしかったですね。」(川添氏)。
さらに川添氏は、ロフトワークの貢献について続けます。「ロフトワークには人という一番の財産があり、人がつながっているという強みがあります。今回は、その人たちをコアにして1000人が集まったわけです。ブログを介して1000人はすぐに1万人にもなり得るわけですが、実は最初の1から10になるとき、10から100になるときが一番大変なのです。プロジェクトを動かすのに人が足りない、人を知らない。そのときに助けてくれたのがロフトワークであり、ロフトワークとつながっている人たちでした。
こうしたつながりは、一朝一夕に実現できるものではありません。これまでの一人ひとりの積み重ね、1つ1つの真心ある対応があってこそ、急な依頼にも助けてくれる人たちがいる。これがロフトワークの一番素晴らしい点だと思います。こうしたシチュエーションを作るのはなかなか難しいことですが、ロフトワークに頼んだら案外簡単にできました」。
大成功を収めた「shibuya1000」は、早くも次の開催を望む声も多く、今後も続けていく見込みです。引き続きテーマとなるのは、公共空間において、そこにいる人と、そこにあるものをいかにして橋渡しするかです。その1つの答えとして「渋谷1000人顔」のようなアイデアが生まれ、それを実現するためのプロセスをロフトワークがデザインし、ディレクションしていく。そんな新しいコラボレーションの形に多くの期待が寄せられています。ロフトワークにとっては、未知なる領域へのチャレンジも増えそうです。

ロフトワークには人がつながっているという一番の財産があります。こうしたつながりは、一朝一夕に実現できるものではありません。これまでの一人ひとりの積み重ね、1つ1つの真心ある対応があってこそ、急な依頼にも助けてくれる人たちがいる。これがロフトワークの一番素晴らしい点だと思います。
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