Main menu

Column コラム

伊藤穰一、林千晶 対談

Chiaki Hayashi

代表取締役
林 千晶

伊藤穰一×林千晶 対談2013
予測しない、実践する、今想像できないことをしたい。[前編]

「“革命”は数十年かけて世界中に影響を及ぼすもの。私たちは今、インターネット登場以後のすごく大きな革命のただ中にいるんです。それこそ数百年後の歴史の教科書に刻まれるような、変革の中に」

2012年、ロフトワーク代表の林千晶が、登壇イベントやインタビューで必ず触れていたキーワードが「AI(After Internet)」でした。この考えの元になっているのは、MITメディアラボ所長で、ロフトワーク長年の応援者(株主)でもある伊藤穰一さん(通称:Joi)の先進的な世界観です。

AI時代、私たちはどのような視野と感覚で世界と向き合っていくべきなのでしょうか? 世界を舞台に楽しく、エネルギッシュに、しなやかに駆け巡る、伊藤さんからそのヒントを伺いました。

(2012年10月 アメリカ ボストンにて収録)

(左から)諏訪光洋、伊藤穰一さん、林千晶

Practices over theory!(理論よりも実践を)

伊藤穰一さん。MITメディアラボ所長室にて Photo by Chiaki Hayashi

林千晶:Joiはメディアラボの所長に就任してから、たくさんメディアの取材を受けているね。


伊藤穰一:そう、そして今日は、ロフトワークからも取材があるらしい(笑)。


:ええ(笑)。今日はダジャレなしでお願いします。


伊藤:ハハハハ。


:では今回のインタビューは、来年が2013年だから…「3」をキーワードに色々聞いてみたいと思います。まずは、所長に就任して以来、何度もJoiのプレゼンテーションに登場している「The Principles」について、改めて聞かせてください。インターネット登場以後の時代に必要な考え方を9つのフレーズで提言しているのだけど……このうち、個人的なベスト3はどれ?


※1 伊藤さんは、BI(Before Internet)からAI(After Internet)になって変貌した世界を、9つのプリンシプルで説明している THE PRINCIPLES:Resilience over strength, Pull over push, Risk over safety, Systems over objects, Compass over maps, Practics over theory, Disobedience over compliance, Emergence over authority, Learning over education


伊藤:「Learning over education(誰かに教わるより、自らの学びを)」と、「Practics over theory(理論よりも実践を)」と、「Compass over maps(地図よりもコンパスを)」かな。

ロフトワーク株主総会後のパーティでも登場した”The Principles”

:その中でもいちばん好きなのは?


伊藤:いちばん好きなのは「Practice over theory(理論よりも実践を)」だね。要は、仮説とか、理屈、あと計画も近いんだけど、結局、経済学者がよく提唱するように、仮説のもとにポリシーとかルールを決めて、それにしたがってお金を投資したり、イノベーションを一生懸命する、というのが普通のやり方……とされている。


:うん。


伊藤:で、すごいお金をかけてリスクを管理するためにはそれも必要かもしれないけれど、今の時代ってもっと、「なんだかわかんないけどやってみたい」っていう気持ちが大事じゃない? ——パッションだとか、直感だとか。


:うんうん、とてもよくわかる。


伊藤:あとは、リスクが高いことは、仮説にはまらないものがたくさんあって。我々の世の中で起きている良いことも悪いことも、仮説にはまっているものは少ない。「もう検索は終わってる」ってインターネットの業界で言われていたとき、グーグルが登場したように。


「何が起きても大丈夫な仕組み」をつくる

MITメディアラボ所長室にて。現在、林千晶は所長補佐もつとめている Photo by Joi Ito

:なるほどね。だから、「未来を予言したってほとんど当たんないから、それよりはどんどんやって、どんな変化にも対応できるほうが——」っていう考え方に通じるということだね。


伊藤:そう。東日本大震災も、あんな大きな地震は「ありえない」という仮説で、ぜんぶプランを立てていて、福島の重大な原発事故が起こったって言われている。それってそもそも「仮説の立て方が良かった/悪かった」とかじゃないよね。何が起きても大丈夫なシステムをつくってれば、良かったんじゃないだろうか。


:うーん、でも、「何が起こっても大丈夫な仕組み」っていうのは、とりようによっては……重箱の隅をつつくような感じというか……。なんていうのかな、日本の政治で政策をつくるときって、「こうなったらどうする」「ああなったらどうする」「こういういじわるな人がきたときどうする」って、全部のチェック項目を潰そうとするじゃない。Joiが言いたいのは、そういうこととは違うよね?


伊藤:それは、「何が起きても大丈夫」ではなくて、「自分が想像できることが起きる時に大丈夫」にすぎない。


:うん。


伊藤:「何が起きても大丈夫」というのは、「俊敏さ」、「柔軟性」、「倫理観の高さ」が大事。ルールや法律でぜんぶ決めちゃう、というのと、レジリアント(弾力的)に、アジャイル(機敏)にやるのって、ほとんど逆に近いと思うんだ。


:うん。たしかに。


伊藤:プラクティス(様式)は必要だけれども、セオリー(仮説)は要らない。極端に言えば、ないほうが良い。 世の中がもっとシンプルだった時代って、セオリーって結構当たったんだけど、今の複雑な経済で、経済学者だって当てられることは少ないじゃない。一生懸命、理屈で説明をしようとしているけど、結局わかんないことだらけの状態。


:宝くじみたいだね、ときどき誰か一人が当たって、「あ、当たった!」みたいな。


伊藤:そう、それはもう、まったく科学的ではない。


今、「予測」を諦めている学問が面白い

伊藤さんの自宅にて。いつも少年のように面白いものを探している Photo by Chiaki Hayashi

伊藤:そこで、最近おもしろいと思う学問が、Meteorology(気象学)なんだ。  Meteorologist(気象学者、測候所技師)は、温度だとか雲だとか、地球のデータを集めてるんだけれど、「基本的に気象は予測できない」というのを前提でやっているところがポイント。それでうまく行きだしている。すごくおもしろい。


:うん!


伊藤:予測しないで何をするかというと、たとえば竜巻とか、台風が起きた時に、すごく俊敏にそれを報告して、わかる限りのデータを伝えて、レスポンスするというアプローチをしている。


:へえー。


伊藤:根本的にデータを「読めない」っていう前提で動いているから、うまく行っているのね。


:なるほどねー。


伊藤:彼らなんかは、もう、諦めてると言えるのかもしれない。すべてをモデル化しようということ、理解しようということを。経済学者はその逆で、理解しようとしてて、仮説を立てて、仮説をもとに実験して、実験が失敗すると、現実を疑うのね。


:うんうん。


伊藤:で、それがなんか、ほんとに……あんまり経済学者を叩いてもあれなんだけど……。


:なるほどね。うんうん。 気象学者は、「予測できない」っていう前提だけど、小さくは仮説を立てて、現実のフィードバックにあわせて、またそこでもっとも現実的な仮説を足していってるわけでしょ。


伊藤:基本的にレスポンス(反応、応答)重視なんだよね。 何かが起きた時に、なるべく早くわかって、それに対して対応する、っていうことだから。


合い言葉は、ユニーク、インパクト、マジック

ロフトワークにて

:では、次は、Joiから見たロフトワークを3つの言葉で。


伊藤:(淡々と)アジャイル。パッション。クリエイティブ。——で、どうかな(笑)。


:えーっ、それがロフトワークを印象づける3つの言葉?


伊藤:つまんない?


:アジャイル、パッション、クリエイティブ……。


伊藤:当たり前すぎる? 


:もうちょっとひねりが欲しい。愛情を持って! ユニークにしなきゃ。


伊藤:(情熱的に)ユニーク、インパクト、マジック!!


:それって、MIT メディアラボのコンセプトそのまんまじゃない!


伊藤:うん、同じ。


:ハハハハ(笑)。


伊藤:3大テーマ。同じでいいんじゃない? いいと思うよ。


:うーん、なるほど。それもいいかも、うん。それはそうしよう。別にみんながバラバラである必要はない。ただし、それぞれの領域でね。


後編に続く

執筆者

Chiaki Hayashi

代表取締役林 千晶

1971年生、アラブ首長国育ち。2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、ロフトワークが手がけるプロジェクトは年間530件を超える。書籍『シェアをデザインする』『Webプロジェクトマネジメント標準』『グローバル・プロジェクトマネジメント』などを執筆。2015年4月、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を設立、代表取締役社長に就任。

最近執筆した記事

コメント

blog comments powered by Disqus