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Column コラム

ロフトワーク 西本泰司 コラム

「ゲーム」でスケジュール前半を短縮する!
徹夜をせずに、10日間でロゴをつくるプロジェクト

「品質」と「スケジュール」を天秤にかけ、日々頭を悩ませる私たち。スケジュールは短く、品質も落とさず、かつ、制作チームが続々倒れるような無理はしない。そんなプロジェクトの進行手法はありえない…のでしょうか? 本当に?

 私は、制作案件につきものの“確認しながら意識を合わせてゆく”工程にそのヒントが隠されていると考えています。そんな仮説と実践とTipsを、プロジェクトマネージャーの視点でご紹介します。

“プロジェクトの序盤”にヒントがある!

ロフトワーク代表の林が2008年に出版した『Webプロジェクトマネジメント標準』(技術評論社)にこんな言葉があります。

 “PMBOKでは、プロジェクトで行うべきマネジメント作業、計44プロセスのうち、半分以上の23プロセスが「立ち上げ」ならびに「計画」のプロセス群にあてられています。この初期段階では、なぜこのプロジェクトが生まれたのか、何を達成しなければならないのか、納品物は何か、納品物にはどんな機能が必要とされるかといった点を、クライアントと制作側で共有しておかなければなりません。”

PMBOKでも「計画」プロセスが重い

PMBOKとは、プロジェクトマネジメントの世界的知識体系です。そのフレームワークの中で定義されている、プロジェクトを成功に導くためのプロセスの半数が序盤の「計画」に集中しているのです。 

 実際、プロジェクト全体を細かい作業に分割したWBS(Work Breakdown Structure)上で、どの箇所がタイムを消費しているか冷静に見てみると、各工程やタスク毎に何かを作成した後に確認してもらって、それを直して…の繰り返し、ようは、“確認しながら意識を合わせてゆく”ことに大半が使われていることがわかります。なぜなら、それは各工程のアウトプットの品質に直接影響するからです。 

スケジュール短縮のために取り組むべきポイントはどうも、“確認しながら意識を合わせてゆく”工程にあるような気が私はするのです。

承認型からゲーム型へ

問題は、「作る人」と「承認する人」が距離的にも工程的にも2つに分断されていて時間がかかること。ならば、“作りながら確認し、かつ同時に意識を合わせてゆく”ことが解決につながるのでは? 

そこで、最近の仕事では、現場に全てのプロジェクトメンバーが集まり、一緒にゴールを目指す過程で意識がどんどん合わせていくやり方が増えました。例えば、「プロジェクトの目的や目標、KPI」であったり、「サービス名」であったり、「コンテンツの内容」であったり「サイトのワイヤーフレーム」であったりをクライアントとクリエイター、そして私たちディレクターが同じ現場でワークショップ形式で作っています。

ロフトワークで取り入れることが多くなったワークショップ

ワークショップは、オンラインゲームに似ています。共通の課題があり、それをクリアするために必要な情報や体験、スキルセットを持った様々なプレーヤーが参加し、ゴールに向けて恊働する。共同作業を通じて、“作りながら確認し、その場にいる全てのプレーヤー間の意識を同時に合わせてゆく”ことを実現してくれる手法なのです。

実践:10営業日でサービス名とロゴを開発!

実際に、とあるサービス名の開発とそのサービス名のロゴデザインの開発を10日間で行う、というプロジェクトに関わったことがあります。通常だと「要件定義」「サービスコンセプト策定」「ロゴデザイン開発」の大きな3つの工程が必要で、それぞれ“確認しながら意識を合わせてゆく”となると…10日間では終わりそうにありません。 

 そこで、私たちは「要件定義とサービス名開発」をワークショップのゲーム型の進行を用いることで4時間でまとめることにしました。(もちろん、受注時点でクライアントからはOKをいただきました)

 品質をあきらめない、超短納期プロジェクトへの挑戦です。

1. ゲームのゴールを設定する

今回、ワークショップのゴールは「1)サービス名が決まる、2)ワークショップが終わったらすぐにデザインに取り掛かれる状態になっている」ことです。

2. プレーヤーを決める

サービス名を決めるためにクライアント側からはサービスに関わる主要メンバー4人と、サービス名案を事前に真剣に考えているメンバー2名の合計6名のメンバーが参加。 

ロフトワークからは私を含めて5名、そしてワークショップが終わった後にすぐにデザインに取り掛かってもらうために、ロゴデザインを担当するデザイナーにも参加をお願いしました。ということで合計12名のパーティーになりました。

3. ゲームソフト(中身)の設計をする

次はゴール設定を踏まえて、どんな“意識の摺り合わせ”を行えばゴールにたどり着くのか、を考えてワークショップの内容を設計します。このケースでは「カバーストーリー」と「エレベーターピッチ」という2つのゲームを組み込みました。

ゲームその1「カバーストーリー」

今取り組んでいるサービスが“未来”で成功を収め、国際的なビジネス誌で表紙を飾る特集が組まれた場合、どんな内容になるのかを皆で考えるワークです。 

「サービスの成功は表紙でどう表現されるか」「要旨を伝える大見出しはどんな内容か」「ハイライトがコラム化されるとしたらどの箇所か」…など、雑誌のフォーマットに置き換えて考えることで、サービスの価値を客観的に捉えることができます

ゲームその2「エレベーターピッチ」

エレベーターピッチとは短時間(30秒程度)で人に複雑なサービスや新規ビジネスを伝えるためのフレームワークです。

「対象顧客」「顧客ニーズ」「サービスの市場分野」「最大の長所」「競合・競合との差別化要因」「サービス名」の7つの要素を整理し、一つの紹介文にまとめることで、情報を整理し、メンバーの意識を揃えます

*2つのゲームを選んだ理由

今回のゴールは「サービス名開発」と「デザイン進行をスムーズにする」こと。案を持ったメンバーを巻き込んでいるので、サービス名のアイデアは沢山でますが、その分、選択する際に判断の基準が必要になります。2つのゲームで「未来像」「現在の特長」を明確にすることによって、そのイメージに近いものを選ぶことができるようになりました。 また、デザイナーに同席してもらうことで、サービスの内容から込められた想い、そしてサービス名決定の過程までを一緒に体験してもらえます。 

プロジェクトでは、情報を整理して受け渡していく間に、背景や意図が伝わりきらないことがあり、遅延やアウトプットの差を生んでしまいます。サービス名が生まれる現場にプロジェクトのコアメンバー全てが存在することによって、スムーズにデザイン工程に進めました。そして、品質を諦めることなく、スケジュール短縮を達成することに繋がったのです。

振り返り:スケジュールはどのように短縮されたのか?

ワークショップを前半に取り入れたことで、その後のロゴデザインの進行もスムーズに進み、10営業日以内に納品することもできました。実際のスケジュールはこんな形です。

 [プロジェクトの全体のプロセス]
11/20(火):ワークショップ実施
11/21(水):ワークショップレポート提出
11/26(月):ロゴデザイン初稿提出
11/27(火):ロゴデザインフィードバック
11/28(水):ロゴデザイン修正提出
11/29(木):ロゴデザイン最終調整
11/30(金):ロゴデザイン納品 

 繰り返しになりますが、綿密に意識合わせしないといけないフェーズはプロジェクトの序盤に固まっています。その部分をゲーム形式、4時間のワークショップに凝縮することで、プロジェクトのアクティビティの殆どをデザインのみの工程にすることに成功しました。 正直なところ、ワークショップを実施しなければ、デザイン納品だけでも厳しかったと思います。クライアントとクリエイターの意識をそろえ、“確認しながら意識を合わせてゆく”工程に過剰なタイムを割いてしまうことは、よく発生します。 

なので、メンバーがたった4時間だけでも一つの場に集まることが出来たのは、プロジェクトに素晴らしい結果を与えてくれました。モノを作るのは結局は人です。誰と、何時、どこで、何をやるか、この設計も、私たちディレクターの大事な仕事です。

承認型、ゲーム型は場合によりけり

もちろん、これは一例で、プロジェクトの性格によっては“確認しながら意識を合わせてゆく”工程を丁寧に進める必要があります。ただ、「ちょっとこれは無理なのでは…」な納期のプロジェクトに直面した際には、ゲーム型の進行もぜひ選択肢に入れてみてください。 

プロジェクトの全工程をゲーム型にする必要はありません。一部の工程をゲーム型にしてスケジュール圧縮ができると、別の工程にタイムをあてがってその箇所の品質を高めることもできるので、オススメです。

まとめ

○ プロジェクトの「立ち上げ」「計画」フェーズは意識合わせが中心

○“確認しながら意識を合わせてゆく”工程は品質のためにある

○ワークショップは、“作りながら確認し、かつ同時に意識を合わせてゆく”ことが出来る

○誰が参加するか、何をやるかというワークショップ設計は重要

○ワークショップ後に内容を確認するドキュメントの「承認」は必要だが、全員のコンセンサスがとれているので大幅修正はほとんど発生しない

 ということで、自分なりのプロジェクトマネジメント×ゲーム型進行をまとめてみました。
皆さんのTipsもぜひぜひ教えてください!

おまけ。その他、スケジュール短縮のTips

・クラッシング

ある工程にアサインする作業者を増やすことでスケジュールを短縮する手法です。数人で作業するため、作業者間の共通ルールを予め整備しておかないと、継ぎ接ぎ的な作りになってしまうのでご注意を! 

 ・ファストトラッキング

タスクを同時並走させることでスケジュールを短縮する手法です。並走させるので、後続タスクで何らかの変更が入った場合に前のタスクの作業に影響が出る場合があります。プロジェクトの潜在的なリスクが増大してしまうデメリットがあるのでディレクターの手腕が試されます。 

 ・ミーティングの「開催頻度と品質」に拘る

ワークショップに限らず、生産的なミーティングはスケジュールを飛躍的に短縮させます。ゴールにたどり着くためにどんな事前情報を用意し、どんな議論をすれば良いのかあらかじめ設計し、ミーティングの品質を高めましょう。開催頻度はどの工程のどの課題を解決するためにあるのか考え、プロジェクトの性格に応じて設定するようにすると◎。惰性の週1会議とは違う、“プロジェクトを推進するための生産的なミーティング”の設計を心がけたいですね。

 ・不要な工程を減らして、必要な工程にタイムを割く

プロジェクトのコアな価値は何なのでしょうか? その価値を生み出すための工程はWBSに反映されていますか? WBSのラフを作り終わった後に、コアな価値を生み出すためのタスクとそうでないタスクを振り分けて、あまり重要でないタスクを思い切って切り取って、重要なタスクにタイムを割り振って見て下さい。品質の視点からもきっと良い結果が出ると思います。 

・フェーズを分ける

人はついつい様々な課題の解決を一つのプロジェクトに入れ込もうとしますが、課題には優先順位の高いものと低いものが存在します。優先順位の低い課題が以外にボリュームのある作業でローンチを遅らせる、なんてこともよくある話。コアの価値を有む部分をプロジェクトから切り出して先行して対応できるようなフェーズ分けを提案してみては如何でしょうか?もちろんクライアントとの相談が必要なので、細分化することにより、どんなメリットがあるのか丁寧に説明するようにしましょう。

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