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Column コラム

イノベーションって何だろう? 僕たちが「やらない」5つのこと ロフトワーク Yu Shigematsu  クリエイティブディレクター 重松 佑

yu_shigematsu

クリエイティブDiv. シニアディレクター
重松 佑

イノベーションって何だろう? 僕たちが「やらない」5つのこと

「今までのプロジェクトでお願いしていた"制作"の限界を超えて、クライアントとかクリエイターとかいう関係性も超えて、"創業チーム"の一員として、一緒にものづくりをやりませんか?」

今、僕が関わっているプロジェクトで、クライアントから最初に受け取ったメッセージがこれだ。「実現したい世界」だけがあって「何をどんな風に作るか」は決まっていないプロジェクト。作るものだけでなく、作り方のデザインも含めてイノベーティブにやっていこうということ。なんだかそれはとても……刺激的でワクワクする! ということで「作り方」を一度全部疑ってみたプロジェクトの手法を、ここで共有してみたい。

1. ゴールを決めない。

チームビルディングにかける時間と“愛”

キックオフに集まったのは初対面のメンバーも含めた6名、最初に決めたことは2点だけ。“プロジェクトに名前をつけること”と、“プロジェクトメンバーをもっと良く知ること”。プロジェクトに名前をつけることはチーム感を一気に生み出して、スポーツチームのような連帯感が起こる。これはすんなりと決まった。プロジェクトメンバーをもっと良く知ることには2時間程度のMTGをまるまる費やした。自己紹介と言ってしまうと紋切り型になって面白みがなくなるので「皆さんは何を愛していますか?」という問いから始めた。

プロジェクトメンバー全員が昼間から真剣に“愛するもの”について語り合う体験は、なかなか恥ずかしかったけど(笑)、お互いを信用するというコミュニケーションの大事なスタート地点から始めることができた。それと同時に、これから作るプロダクトは“自分たちの愛するものにするんだ”という感覚を共有することができた。ここまで作ればOKというゴールを決めて、一時的に安心するのではなく、チームとして一緒にスタートする準備を整える。「そこは任せた!」というざっくりなやり取りを気持よくできたのも、メンバー全員が一緒のスタート地点に立てたことが大きい。

1つのチームとしてプロジェクトのスタート地点に立つ

2. 議事録を書かない。

リアルタイムドキュメンテーションで残す“感触”

議事録の重要性って何だろう。MTGで決定したことや発言したことを記録して、その内容をプロジェクトメンバー全員が合意した状態にすることだろうか。「言った、言わない」の水かけ論になることを防ぎ、次週定例会議までのタスクを明確化することだろうか。なんだか、それってプロジェクトメンバーを信用しないことから始まっているように思える。

MTGってもっと大切なことがあるんじゃないだろうか。メンバー全員で顔を付きあわせて「こうなったら面白そう」って盛り上がったりとか、「これやっちゃったらヤバイよね…」と渋い顔をしてたりとか。分からないことや曖昧なことをすぐに明確化して安心するのは簡単だ。でも、本当に価値のあることをずっと探し続けていくのは、メンバー全員にとって苦しいことでもあった。

だから「雰囲気」や「感触」といった文字や形にならないものを残すために映像を撮ることにした。これはリアルタイムドキュメンテーションと呼ばれる手法。確認のために議事録を残していくのではなく、映像を使って感触を残していく。MTG後に映像を振り返ると、その内容や盛り上がりなども思い出すけど、それ以上に効果的だったのは「次にどんな面白いMTGにしようか」という発想が浮かぶ点。実際にその後のMTGはどんどん変わっていった。


▲アプリ名をブレストした時のリアルタイムドキュメンテーション。

3. ワイヤーフレームを描かない。

高品質のペーパープロトで探る“感動の形”

今回のプロジェクトではAndroidアプリを制作している。このアプリは美しいレイアウトや、ひと目で理解できる情報設計は要件の一番にはこない。それ以上に僕たちが求めているのは「こういうの欲しかった!」というユーザーの声と、「こんなスゴイの出来た!」という僕たち自身の声。どちらも“本当に心が動くかどうか”が気になる一点だった。そういうものを目指して制作をしている中で、PCに向かって1人黙々としかめっ面をしてワイヤーフレームを書いてはいけない。

ユーザーの感動を狙う前に、制作をしている僕たちが感動しているかどうかが重要じゃないだろうか。A4用紙に印刷されたワイヤーフレームをスクリーン上で確認しても感動がうまれるはずない。なのでワイヤーフレームは書くのはやめた。その代わりにペーパープロトタイプで作ることにした。

要素をバラバラの状態で用意してプロジェクトメンバー全員で「こうじゃない、ああじゃない、これ良くない?」と試しながら良いアイデアを探していく。今回のプロジェクトではデザイン事務所のLigh.さんが筐体まで含めたペーパープロトタイプ用のデザインを制作してくれた。ペーパープロトタイプを単純に手法として行うのと、アウトプットをキチンと考えデザインされたプロトタイプを使うのでは大違いだ。今振り返ると当たり前のようだが、ペーパープロトタイプの品質をここまであげられるのかと驚いた。


▲ペーパープロトタイプを行った時のリアルタイムドキュメンテーション。

4. 完成させない。

無駄を大切にすることで生まれる“アイデア”

多くのプロジェクトでは使い道や目的がはっきりしない成果物は作らない。むしろ最初に成果物を決めてそれを作ることがプロジェクトになってくる。

でもプロジェクトってそもそも始めに決めたものを作ることだったっけ?それはプロジェクトに埋もれている色んな可能性の芽を摘んでしまっているんじゃないだろうか、と思う。「こんな感じだったら面白くね」というアイデアを「それは余力のある時に…」とか言ってしまってないだろうか。

今回のプロジェクトでは作ってみてから考えることを大切にした。使い道が分からなくても、そのうち思いがけない使い方が見えてくるかもしれないし、そこから本当に必要な別の何かが見えてくるかもしれない。例えば今回はプロモーション用のムービーや写真を制作したが、実際のユーザーの目に触れるところでは使っていない。それははたして無駄だったのだろうか。…いや、使わなくても「ユーザーに向けたアウトプット」を作り続けていたことで、チームメンバーのクリエイティブに対するモチベーションは最後まで落ちなかった。 それと作ることで別の問題点が明らかになった。例えばキャッチコピーやライティングの重要性を全員が事前に認識し、公開前にブラッシュアップを重ねることができた。

「たとえばこんなビジュアル?」と、作ってみたサンプル。 登場しているのは全員ロフトワーク社員。 ボツになったけれど、ここまで作ってみると分かることもある。

5. ターゲットユーザーを想像しない。

街に出て聞くユーザーの“声”

実はターゲットユーザーを決めることは、とても大切だと思っている。ただターゲットユーザーを想像しないことが同時に大切だと思う。

例えばこんなユーザー像を想像してみる。

“20代前半で社会人3年目以内、職場から家までの距離が30分くらい。自転車通勤もいいなと思っているが今は電車で通勤する、体を動かすのが好きなAndroidユーザー”

なんとなくユーザー像を想像できる気がしてしまう。でも残念なことにプロジェクトメンバーには20代もいなければ、実はAndroidユーザーもほとんどいない。しかも各自の仕事はオフィスの中でPCと向き合ってることがほとんどだったりする(笑)。

僕たちはオフィスの中でユーザーを想像することを止めて、実際に街にでてユーザーの声を聞くことを始めた。開発途中のモックアップ版を見せるのはちょっと恥ずかしさもあり「まだ完成版じゃないんですけど…」とか口ごもってしまうけど、それでもそこで得られる、時には痛烈な意見が、次に進む方向を見せてくれることが分かった。厳しい意見をもらうと一瞬ヘコむ。僕たちが作ってきたものは間違ったものじゃないかとも思う。しかしプロジェクトメンバーとのチームビルディングがしっかりとできていれば、すぐに立ち直って軌道修正していけることもこのプロジェクトを通して分かったことだ。

「Widgets」公式サイト http://widgetsapp.info/

終わりに

僕たちは普段慣れ親しんでいる「作り方」を1つの答えと見なしがちだけど、プロジェクトの数だけ答えの数もあり、その答えはプロジェクトメンバーが自分たちで探していくしかないと感じている。

ときには、制作に時間をかけるよりもコミュニケーションに時間をかけることが大切だったりするし、制作後にその価値をどれだけ伝えられるかに重きを置く場合もある。どこからどこまでがプロジェクトで、どこからどこまでが自分自身への問いなのか。それを「デザイン」するのも僕たちの役割なのかもしれない。

新しいものを作りたいなら、今までの作り方を疑ってみる。 自分の今している仕事を疑うこと、そして目の前にある一つ一つのことを面白くしていくことからまずは始めて行きたい。

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